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雨がやんだら

雨がやんだら
雨がやんだら
著: 小川いら
発行: フロンティアワークス
レーベル: ダリア文庫e

ドイツ語の翻訳を手がける雨宮郁は、月に一度、恋人に会いに出かける。
一年半前に仕事で知り合った高橋とは不倫の関係だ。
ある日、高橋に別れ話をされている現場を知り合いの薬剤師・雑賀徹志に見られてしまう。
雑賀は東洋薬が専門で、趣味は流木集めという変わり者だ。
その雑賀に「辛い恋なんかやめて、俺のところにこい」と言われるが……。
ロマンチック・ラブストーリー☆


「ただ、そういう恋は辛いだろ」
雑賀の言葉に郁は俯いたまま、答えることができなかった。
「十代とは違うだろうけどね、まだまだ相手のことよりも自分のことを考えてしまってもしょうがない年齢だ。当然ながら独占欲も強くなる。単純に、そういう意味でも不倫というのはきついと思うし…」
岩場の陰での会話をどこまで聞かれていたのかわからないが、切り子のグラスを傾けながら、雑賀は茶化すでもなく、かといって妙に深刻ぶることもなく言う。
「ましてや体の問題もあるだろう。俺が思うに君のストレスってのは、すばり欲求不満じゃないのか?」
いくら酒が入っていても、聞き流せることと、そうでないことがあった。
特に、体のことについてはデリケートな問題だと思うし、他人の彼にズカズカと土足で踏み込んでもらいたくない。
「あ、あなたなんかには、わかりませんから…」
郁は手にしていたグラスをカウンターに置くと、ムッとした表情を隠そうともせず押し殺した声でそう言った。
両親や祖母とも仲良く暮らしているものの、自分の心の奥深くに秘めているこんな気持ちは絶対に打ち明けたりできない。
親しい友人、知人にだってカミングアウトしていない郁なのだ。
自分の本当の気持ちを理解してくれる人がこの世にいるとしたら、きっと高橋くらい。
「俺は、どうせこんな人間だから…」
「どういう意味かは知らないが、その言い方はあまりよくないと思うけど…」
雑賀は自分から厳しい言葉を振っておきながら、郁が半ばやけくそになって吐き捨てるとすぐさまそれを否定するようなことを言う。
そんな態度がよけいに郁の気持ちを苛つかせる。それでなくても、この数週間というもの、自分の気持ちが穏やかだったことなんてないのだ。
本来はあまりおしゃべりなほうじゃないが、チクチクと心に突き刺さることを言う雑賀に対して頭にきていたというのもある。
でも、おそらく自分の心は思っている以上に限界で、ボロボロの状態だったのだ。
お酒の力を借りて、郁は鬱々としていた胸の内を言葉にしはじめた。
「あなたにわかりますか? 同性にしか興味が持てないんですよ。そんなこと、いまどき気にしない人もいるだろうけど、俺にはそれだけでもう充分重たいんだから」
堂々とカミングアウトしている人達と自分は違う。
臆病だと言われても、郁は好奇の目に晒されるのは耐えられない。
「ときには生きていくのがしんどくもなりますよ。でも、やっと好きな人が見つかって、相手も俺のこと受け入れてくれるってわかって、どんなに嬉しかったか…」
「妻子持ちでも?」
「妻子持ちでもっ! あんなふうに心が通じ合う相手なんて初めてだったんだ。たとえ一ヶ月に一度しか会えなくても、そばにいられればよかった…」
「一ヶ月に一度ってのは、またずいぶんと禁欲的じゃないか? ストレスが溜まって当然だな」
自分が想像していた以上だと思ったのか、雑賀がいくぶん驚いたように言う。
実際、自分達の関係は不倫とはいえ、どこかストイックなものだった。
郁は手酌で酒をグラスにそそぐと、一気に飲み干してからヤケっぽく笑ってみせた。
「呆れますか? でも、つき合い出して一年ほど経つけど、抱かれたのはまだ数えるほどしかないから」
一ヶ月ぶりに会ったからといって、必ず体を繋げることもない。高橋の時間がそれを許さないことだって少なくないのだ。
そんなときは、二人で食事をし、人目を忍んで車の中でそっと唇を重ねるだけで別れることもある。
すると、雑賀はいよいよ呆れたように、椅子の背にもたれると胸の前で腕を組む。
「どうりで、そんな顔をしているはずだ」
「そんな顔ってどんな顔? 情けない? みっともない? それとも欲求不満丸出しの顔とでも?」
郁が開き直って訊けば、雑賀は黙って首を横に振る。
「いいや、せつなそうな顔だ」
意外な言葉に驚いて、郁は雑賀の顔を見つめる。
そして、なんだか奇妙な気持ちで彼から視線が外せなくなる。
それは、郁の顔が「せつなそう」だと言った雑賀のほうが、もっとせつなそうな顔をしているように思えたから。
もしかして、自分はすっかり酔っぱらってしまっているんだろうか。
だとしたら、これ以上ここにはいられない。
郁は立ち上がって自分のデイバッグを手にした。
「帰ります…。ごちそうさまでした」
そう言ったものの、足がちょっともつれてしまった。それを見て、雑賀は郁の手を引いてもう一度席に座らせる。
そして、勘定を頼むと、その間に郁に水を飲ませてくれた。
店の外に出てみれば、すぐそこまできている冬の気配が火照った体を包み込む。
雑賀への挨拶もそこそこに駅に向かって歩き出したとき、思ったよりも酔っている自分の足がふらつき、そばの電柱に手をついた。
「おい、危ないぞ」
手を伸ばした雑賀が郁の体を支えてくれる。
「あっ…」
彼の腕にもたれ込んだ瞬間、ぶるっと体が震えた。
それは、いきなり包み込まれた人肌の温もりに驚いたから。
「あの、雑賀さん…」
名前を呼んで顔を上げたら、思っていたよりもずっと端正な彼の顔がちょっと困ったように微笑んでいた。
それを見て、なぜか郁の胸がドキドキしている。
お酒のせいだけじゃない。こういうのはどうしたらいいのかわからない。
彼の体を突き放せないでいると、雑賀の優しい声が自分の耳元で響く。
「おいで。そのままじゃ、帰せないよ…」
体を抱えられるようにして、ふらつく足どりできた道を戻り、また駅から遠ざかっていく。
帰らなくちゃと思いながらも、そのとき雑賀の誘いを拒めなかった自分は、やっぱりすごく酔っぱらっていたのかもしれない。

→「雨がやんだら」をダウンロードして読む
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